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novel1
高い空 天空を渡る風

森の中のミコッテ族の集落にはたくさんの女たちと少女たち、それから自分を含めて4人の男子たちが住んでいて、一族を束ねる長は一番奥まったところにある大きな天幕で暮らしていた。

母に手をひかれて天幕に戻るとき、急に胸が苦しくなって、目から熱いものがあふれた。
声を殺して泣いていることに気づいたようだったが、母はずっと黙っていてくれた。

ゆるゆるとした坂を登りきったところで、砂塵の向こうにとてつもなく大きな影がうっすらと見えた。
俺は集落で生まれたから、大きい街はもちろん、都市など見たことがない。だからそれが砂漠の国ウルダハだなどとは、すぐにはわからなかった。

「どんなことをしても生きていかなくちゃいけない。私はただ土に還るだけ。何も哀しいことなんてないよ。」
ふたりだけの小さな天幕でよくそうしてくれたように、母の子守唄が耳元でずっと聞こえていた。

母の消息は、ようとして知れなかった。あの怪我の状態からいって母がすでにこの世にいないことは明白だったが、それでも彼女の最期だけはできれば知りたいと思った。

「だいたいチビとしか言えないのは語彙が少ないからだ。まともに読み書きができるようになってから人をけなせよな。まったく、頭の中に何が詰まってるんだ。筋肉か?脳みそじゃなさそうだしな。」

悲鳴が聞こえる。誰の声だろうと思ったら、叫んでいたのは自分自身だった。
涙でにじむ目に、冷たく光る白い月と、血のように真っ赤なダラガブがうつる。

激しい怒りで胸が苦しい。涙がこみ上げてくるのを感じた。
「親方は怒るなっていうけど、そんなの無理だ。ウルダハの法律なんか知るもんか!あんなやつぶっ殺してやる!」

壁の外では謎の疫病が蔓延し、町では犯罪が増え、人々は絶望を抱えて暮らしていた。
今にダラガブが墜落してくると唱える者もいたが、だからといって逃げるところもない。
俺たちのような一般市民は日々生きていくことで精一杯だった。

ぎゅっと目を閉じていたが、鞭が飛んでくるたびに視界がぱっと赤く染まる。
精一杯身体を縮めたつもりだったが、容赦なく背中を、脇腹を、鞭で打たれた。

ふたりでじっくり話す機会など滅多にあるものではなかったのに、どうしてあのとき、彼女の話をもっとしっかり聞いてあげなかったんだろう。まもなく彼女と別れることになるとわかっていたら、顔をあわせて語り合うことだって出来たかもしれないのに。

「シグ。俺に、格闘術を教えてもらえないだろうか。」
格闘術を習ったところでシグのようにアマルジャに太刀打ちできるのかどうかもわからないが、それでも何もできないよりはマシだと思った。

砂漠の国に、潮風が吹き付ける。
振り仰ぐと、ウルダハの空はどこまでも高く、青く、天空には清涼な風が吹き渡っていた。

novel2
高い空 天空を渡る風

「ママルカ、ひさしぶり! 元気そうだね。毛も生えそろった?」
「鳥のヒナかよ。そうだな。表現するなら、ワイルドなママルカから元のシティボーイ・ママルカになったと言ってくれないか。」
「相変わらずわけわかんないこと言ってるよなあ。」

「弁当ってやつ、あんまり美味しくないっちゃ。がっかりっちゃ。」
「おまえ、人のモンを食っといてよく言うな。またムサシの蹴りを食らいたいか?」
「ネコ野郎の蹴りなんか怖くないっちゃ。」
「わかった。じゃあもう店は任せないしチャリチャリもくれてやらん。」
「申し訳ないことをしたっちゃ。深く反省してるっちゃ。」

SS
高い空 天空を渡る風

「おっ、なかなか悪そうな面構えだ! 何人か殺ってそうだな!」

「なにその褒め言葉。全然うれしくないんだけど。」

しかし、これなら借金の取り立てにきた血も涙もない悪党といっても納得できる。

気にしていない、なんて言ったら嘘になる。

secret
高い空 天空を渡る風

冒険者になったムサシと相棒シルヴァンの小話。(以下は限定公開です)

「なんなら相手しようか?」
と、涼しい顔をしながらムサシが言った。
その物言いに、シルヴァンの気持ちが少しザワつく。

「かあさん…。」

閉じた瞳から涙がポロリとこぼれた。
だいたい、彼の親についてなど、シルヴァンは聞いたことすらなかった。そういうことは本人が語るまで聞かないのが礼儀というものだ。

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